最強のピカチュウ

     プロローグ
最強、もっとも強いと言う意味。
でも、強ければ幸せか、そうじゃない。

最強だからこそ、怖がられ、遠ざかって行く。
強いって、なんなんだろう……

強いって、本当にその人にとって、
幸せな事なんだろうか……


     最強のピカチュウ(前編)
…僕、ピカチュウ。
知っての通り、黄色の体をしている。

僕は、この間もポケモンを助けた。
かわいいロコンだった。

襲っていたのはタチの悪いオニドリルで、
ロコンの持っていたリンゴがおめあてだったらしい。

僕は、明らかに怖がっていたロコンがかわいそうで、手加減をして10万ボルトをあのオニドリルに浴びせた。
オニドリルは驚いて、命中もしないのに逃げていってしまった。

…僕が手加減をした理由は、飛行タイプのポケモンが
電気タイプのポケモンの攻撃に弱いから、確かにそれもあった。

でも、本当の理由はそうじゃない。

…僕は今は野生だけど、元はハルツと言うトレーナーのポケモンだった。

ハルツは、あの無敵と言われた、ドラゴン使いのワタルとポケモンリーグの
決勝戦で戦った人物だったんだ。

僕は、ハルツの最強パートナー・カイリューに負けて捕まった。
でも、その前に、ハルツのNO.2、ポッポは倒していたんだ。
それでも、やっぱりカイリューには勝てなかったんだ。

結局、僕は捕まった。
……それが、今の悲しい現実の始まりだった。

ハルツは、僕をゲットして1周間後、僕を逃がしてくれた。
モンスターボールは僕を主人に従わせる能力があったから、僕はいつも笑顔だったんだ。

でも、ハルツはその作り笑顔がやっぱり気になっていたらしかった。

「ピカチュウ、俺はお前が大好きだった。
 でも、お前は俺が好き以前に、野生の方が、やっぱり好きなんだな。
 俺のNO.2のポケモンになっても、好まないと思う。

 ピカチュウ、今からお前を逃がす。
 短い間だったけど、ありがとう。」 

ハルツは、最後にこう言い残し、モンスターボールを完全に壊れないように石に投げた。
モンスターボールは壊れ、現形だけをとどめていた。

その言葉を口にした後、ハルツの瞳には涙がたまっていた。
そして、ピカチュウの頭にその涙をこぼしながらも、ピカチュウをなで、最後に抱きしめた。

そして、ハルツは壊したモンスターボールをピカチュウにくれた。

…ピカチュウも、瞳が濡れていた。
ピカチュウは、ハルツが見えなくなるまで、見送り続けた。

「ハルツ…ありがとう…」

僕は、そう思った。
ハルツは、とてもいい人なんだな…と。

ここで終わっていれば、全てが良かった…

僕は、友達だったヒトカゲに会いに行ったんだ。

でも…、会った瞬間、ヒトカゲは駆け寄ろうと走り出したその瞬間、
僕に向かって…「かえんほうしゃ」を発射した…

僕のすぐ顔の横、左の頬に少しあたった。

驚いて、立ち止まっていた僕に、ヒトカゲは言った。

「この裏切り者!!!
 あの時の…僕と君が友達になった時の約束を…!

 君なんかにはもう用はないっ!
 僕の目の前から消えろ!今、すぐにだ!!!」

「ちょ…ちょっと、待…」

僕は訳を話したくて、右足を踏み出したその時、
ヒトカゲは僕に直接、「かえんほうしゃ」を命中させた。

普段の僕なら、なんの事はない、電撃で、空中で無力化できたはずだった。
でも、今の僕には、「かえんほうしゃ」をうけても、ふんばる事すらできずに、
ただ、ヒトカゲの「かえんほうしゃ」の威力のまま、吹き飛ばされてしまった。

…倒れている僕を見もせず、僕のたった一人の友達、
ヒトカゲは無情にも去っていった。


…もう、昔のようにはならないんだね…
昔の、あの楽しかった日のようには…

僕はその夜、昔一諸に描いたそれぞれの笑顔のスケッチを見て、涙をこぼしていた。

ハルツ…彼に捕まり、捕まったからには笑顔くらいは
作ろうと心がけたのが、いけなかったのかな…

ヒトカゲ…君が人間不信なのは、僕が一番良く知っているよ…
君のしっぽの傷と、僕の半分裂けた耳。


……僕が、僕が…いけ…なかった…

もう、まともに話せやしない。
だめだ、もう今日は寝よう。そして、また明日、謝りに行こう…

僕に友達は一人しかいない…
人間不信でもあり、ポケモンもあまり信じられなかった過去の記憶が、
友達作りをじゃましているんだ…




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2003/02/01  Special Thanks to 白銀龍